アジサイランブ様よりお題をお借りしました。
拍手にしていたSSS集です。消化したものは横に名前と学年等が書いてあります。題名をクリックすると下に本文が現れます。
01:桜
02:入学式
03:春
04:屋上
05:昼寝
06:掃除
07:休憩時間
08:放課後
09:クラス替え
10:教室
11:誕生日
12:売店
13:将来の夢
14:時間
15:セーラー服
16:学ラン
17:かっこいい人
18:可愛い人
19:身体計測
20:視力検査
21:自己紹介
22:学級委員
23:生徒手帳
24:お菓子
25:笑顔
26:紫陽花(アジサイ)
27:雨
28:夏
29:夏服
30:忘れ物
31:教科書
32:ケータイ電話
33:授業中
34:先生
35:涙
36:英語(藤見忍−高2)
「頼むよ、香織ちゃん」
両手を合わせて思いっきり頭を下げた。
「そう言われてもさ」
香織ちゃんは気が乗らないらしい。わかってる。これは俺の自業自得だ。香織ちゃんは普段から「せめて宿題くらいちゃんとやりなよ」と言ってくれていたのに。全く何もしなかったから今になって大量の課題を出されてしまった。しかも一週間後に提出しなければ夏休みは特別補習とまで言われた。無理。英語の補習なんて死んでも無理。俺の夏休みが英語に奪われるのも最悪。
香織ちゃんにこういうことで迷惑をかけるのは本当に悪いと思う。でも俺一人じゃ絶対にこんなのわかんないし。終わらないし。だから誰かに手伝ってもらうしかない。
これも香織ちゃんとの楽しい夏休みの為なんだ。それに俺は香織ちゃんが最後には折れてくれることを知っている。
ごめんね、香織ちゃん。
37:夏休み(ルイス−17歳)
両手を合わせて思いっきり頭を下げた。
「そう言われてもさ」
香織ちゃんは気が乗らないらしい。わかってる。これは俺の自業自得だ。香織ちゃんは普段から「せめて宿題くらいちゃんとやりなよ」と言ってくれていたのに。全く何もしなかったから今になって大量の課題を出されてしまった。しかも一週間後に提出しなければ夏休みは特別補習とまで言われた。無理。英語の補習なんて死んでも無理。俺の夏休みが英語に奪われるのも最悪。
香織ちゃんにこういうことで迷惑をかけるのは本当に悪いと思う。でも俺一人じゃ絶対にこんなのわかんないし。終わらないし。だから誰かに手伝ってもらうしかない。
これも香織ちゃんとの楽しい夏休みの為なんだ。それに俺は香織ちゃんが最後には折れてくれることを知っている。
ごめんね、香織ちゃん。
「お前、夏季休暇はどうするんだよ」
何か予定はあるのか、と聞いてきたのは同じクラスの委員長だった。面倒見がよく、クラスでも浮き気味のルイスにもよく声をかけてきてくれる。そういう人間に対してはできるだけ柔軟な対応を心がけようとしてきた。今も話題を膨らませる努力をしたいと思う。しかし。
「残念ながら、特にこれと言って予定は」
「お前んち金持ちなんだからどっか行ったりすればいいのに」
「父が忙しいから。それに、長い間家を離れると猫が心配で」
「あ、ああ。猫ね。なるほど」
ほんの数日とはいえ夏に家を空けるのは危険だ。何があるかわからない。何かあってからでは遅い。だから夏は一日中猫達と一緒にいようと思う。ルイスにとってはそれが何より幸せな休暇なのだが、それを言っても彼は理解できないだろう。
38:奇跡(吉野香織−高2)
何か予定はあるのか、と聞いてきたのは同じクラスの委員長だった。面倒見がよく、クラスでも浮き気味のルイスにもよく声をかけてきてくれる。そういう人間に対してはできるだけ柔軟な対応を心がけようとしてきた。今も話題を膨らませる努力をしたいと思う。しかし。
「残念ながら、特にこれと言って予定は」
「お前んち金持ちなんだからどっか行ったりすればいいのに」
「父が忙しいから。それに、長い間家を離れると猫が心配で」
「あ、ああ。猫ね。なるほど」
ほんの数日とはいえ夏に家を空けるのは危険だ。何があるかわからない。何かあってからでは遅い。だから夏は一日中猫達と一緒にいようと思う。ルイスにとってはそれが何より幸せな休暇なのだが、それを言っても彼は理解できないだろう。
「香織ちゃん、補習なくなったよー!」
やった!と滅多にない大きな動きで喜びを表している忍。英語の補習の危機に立たされていた忍だから、回避できたことは心底嬉しいはずだ。何しろ忍は英語が大っ嫌いだから。
しかし補習免除の為の課題につき合わされ、ほぼ全問を解いたのは香織だ。香織が違う紙に答えを書き、忍がそれを写す。ひたすらその流れ作業だった。
それでは忍にとってよくないとわかっていながらも、完全にはねつけることができなかったのだから最後までとことんつきあうしかなかった。香織だってもともと英語は得意ではなかったのに、いつも忍のフォローに回っているせいで最近はできる問題が増えてきた。期末テストの点数も結構よかった。忍は――言うまでもない。
喜ぶ忍の隣で思う。
冬休みの補習も回避できるだろうか。
39:成績表(狩屋良臣−高1)
やった!と滅多にない大きな動きで喜びを表している忍。英語の補習の危機に立たされていた忍だから、回避できたことは心底嬉しいはずだ。何しろ忍は英語が大っ嫌いだから。
しかし補習免除の為の課題につき合わされ、ほぼ全問を解いたのは香織だ。香織が違う紙に答えを書き、忍がそれを写す。ひたすらその流れ作業だった。
それでは忍にとってよくないとわかっていながらも、完全にはねつけることができなかったのだから最後までとことんつきあうしかなかった。香織だってもともと英語は得意ではなかったのに、いつも忍のフォローに回っているせいで最近はできる問題が増えてきた。期末テストの点数も結構よかった。忍は――言うまでもない。
喜ぶ忍の隣で思う。
冬休みの補習も回避できるだろうか。
高校に入って初めてもらった成績表はオール5。これまでと全く変わり栄えのない内容で面白みも何もない。そもそもエスカレーター式のF学では高等部から入ってくる外部組は少なく、特に良臣の在籍している特進クラスは中学部の時とほとんど顔触れが変わらない。「新鮮な空気を吸ってくる」と言って特進から出て行った奇特なやつもいるがそれはそれ。どっちにしろ来年には戻ってくるんだろうと思う。あいつも成績上位者表に名前が出ているところは変わらなかったから。
40:向日葵(ヒマワリ)(浅間梢−高2)
「あ、ヒマワリ」
待ち合わせの場所に向かう途中、道端で咲いている大きな花が視界に入って自転車を止めた。
道端とはいえ、プランターから背を伸ばしているのだからきっとこの辺りに住む人が植えたのだろう。そうそう自然に生えるものでもない。
夏の綺麗な青い空に映える大輪の黄色い花。いつも太陽の方向を仰いでいるヒマワリは見かけによらず一生懸命な感じがして結構好きだ。
もう少し見ていたいが、時間に余裕もないし、持って行くわけにもいかない。少し考えて携帯を取り出し、パシャリとその姿をカメラに収めた。
後で待ち受けにしよう。そう思いながら。
41:海(吉野香織−高3)
待ち合わせの場所に向かう途中、道端で咲いている大きな花が視界に入って自転車を止めた。
道端とはいえ、プランターから背を伸ばしているのだからきっとこの辺りに住む人が植えたのだろう。そうそう自然に生えるものでもない。
夏の綺麗な青い空に映える大輪の黄色い花。いつも太陽の方向を仰いでいるヒマワリは見かけによらず一生懸命な感じがして結構好きだ。
もう少し見ていたいが、時間に余裕もないし、持って行くわけにもいかない。少し考えて携帯を取り出し、パシャリとその姿をカメラに収めた。
後で待ち受けにしよう。そう思いながら。
忍に「海に行こう」と誘われた。一体どうしたのかと思ったら何でも高校生活の最後に夏らしいことをしたいらしい。あまりそういうのに拘らないタイプだと思っていたから少し意外だった。
でもね、パス。海って焼けるし。私、赤くなるだけじゃなくて肌がヒリヒリするタイプだから夏の露出はいろいろ考えなきゃいけない。街をぶらぶらするくらいなら日傘で何とかなるけど、海って言ったら太陽の下で水着が定番。水着が嫌ってわけじゃない。私の体質を考えたら夏の海は天敵ってだけ。きっぱりそう言ったら忍はがっかりして。なんだか悪いことした気分になったから、せめて水があるところにと思って水族館に誘ったらすごく喜んでいたけれど。
ただ、後になって思った。忍は女装で海に行くつもりだったんだろうか?
42:山(藤見忍−高1)
でもね、パス。海って焼けるし。私、赤くなるだけじゃなくて肌がヒリヒリするタイプだから夏の露出はいろいろ考えなきゃいけない。街をぶらぶらするくらいなら日傘で何とかなるけど、海って言ったら太陽の下で水着が定番。水着が嫌ってわけじゃない。私の体質を考えたら夏の海は天敵ってだけ。きっぱりそう言ったら忍はがっかりして。なんだか悪いことした気分になったから、せめて水があるところにと思って水族館に誘ったらすごく喜んでいたけれど。
ただ、後になって思った。忍は女装で海に行くつもりだったんだろうか?
山はあまり好きじゃない。夏は蚊が多いし、蜂も出る。携帯も電波が通じないところもあって、できれば行きたくない場所だ。
それなのに今、山道を歩いているのには理由がある。藤見一家は夏休みを利用して母方の実家を訪れていた。母の実家は結構な山の中にある。昔から年に一、二度は訪れているが未だに慣れない。幼い頃はそれでも蝉取りにはしゃいだこともあったが、今では大量の蝉の鳴き声も苦手になりつつある。そんな中を歩きながら畑にいる祖父に祖母からの伝言を届けに行かなければならず、浮かない気分だ。
親戚の前では女物の服も化粧とも無縁だ。忍とてうるさく言ってくる親戚に時間を潰されたくないのでその線は守っている。とは言え、伸ばしている髪だけはどうしようもない。祖父はこの髪を見る度に「男なら〜」と言い出すのでうるさくて仕方がない。あと一日の辛抱。それが無駄に長い一日であり、相当な忍耐を強いられることになるのを忍は既に知っていた。
43:旅行(狩屋良臣−高2)
それなのに今、山道を歩いているのには理由がある。藤見一家は夏休みを利用して母方の実家を訪れていた。母の実家は結構な山の中にある。昔から年に一、二度は訪れているが未だに慣れない。幼い頃はそれでも蝉取りにはしゃいだこともあったが、今では大量の蝉の鳴き声も苦手になりつつある。そんな中を歩きながら畑にいる祖父に祖母からの伝言を届けに行かなければならず、浮かない気分だ。
親戚の前では女物の服も化粧とも無縁だ。忍とてうるさく言ってくる親戚に時間を潰されたくないのでその線は守っている。とは言え、伸ばしている髪だけはどうしようもない。祖父はこの髪を見る度に「男なら〜」と言い出すのでうるさくて仕方がない。あと一日の辛抱。それが無駄に長い一日であり、相当な忍耐を強いられることになるのを忍は既に知っていた。
リビングに行くとコルクボードに母からのメッセージが残されていた。
ロスまで旅行に行ってきます。日本には27日に戻ってくる予定。
「旅行じゃなくて仕事だろ」
呟いても誰も反応する者はいない。夜の十一時、この家にいるのは良臣だけだった。
夜、家に一人きりというのは珍しいことではない。忙しい両親はなかなか家に帰ってこない。それを寂しいと思っていたのは中学生になる頃くらいまでだったろうか。今ではすっかり慣れて何とも思わない。家事はハウスキーパーがやってくれるから自分はやるべきことだけしていればいい。食事には困らないし、小遣いも充分もらっている。何も文句はなかった。
44:お土産(近藤真衣−高2)
ロスまで旅行に行ってきます。日本には27日に戻ってくる予定。
「旅行じゃなくて仕事だろ」
呟いても誰も反応する者はいない。夜の十一時、この家にいるのは良臣だけだった。
夜、家に一人きりというのは珍しいことではない。忙しい両親はなかなか家に帰ってこない。それを寂しいと思っていたのは中学生になる頃くらいまでだったろうか。今ではすっかり慣れて何とも思わない。家事はハウスキーパーがやってくれるから自分はやるべきことだけしていればいい。食事には困らないし、小遣いも充分もらっている。何も文句はなかった。
「はい、これお土産ー」
一週間ぶりに会った莉奈はすっかり日焼けしていた。莉奈が命を懸けているバンドのライブ土産だと言って渡されたのはご当地○ティちゃん。あ、この被り物なんかヘン。どうせならもっと可愛いのがいいのに。
「ありがと。で、どうだった?」
○ティちゃんを眺めるのもそこそこに話を聞くことにする。だって、莉奈はお土産を渡すのが目的じゃなくて、バンドの話をしにきたんだもの。
「もうさー、聞いてよ聞いてよ!」
莉奈は拳を振って話し始める。
さて、今日は何時間つき合わされるんだろ。
あー、あたしもライブ行きたい。
45:遊園地(秋田聡−高2)
一週間ぶりに会った莉奈はすっかり日焼けしていた。莉奈が命を懸けているバンドのライブ土産だと言って渡されたのはご当地○ティちゃん。あ、この被り物なんかヘン。どうせならもっと可愛いのがいいのに。
「ありがと。で、どうだった?」
○ティちゃんを眺めるのもそこそこに話を聞くことにする。だって、莉奈はお土産を渡すのが目的じゃなくて、バンドの話をしにきたんだもの。
「もうさー、聞いてよ聞いてよ!」
莉奈は拳を振って話し始める。
さて、今日は何時間つき合わされるんだろ。
あー、あたしもライブ行きたい。
秋田は窪田から送られてきたメールを見て一瞬動きを止めた。男六人で遊園地に行かないかという趣旨のメールは高校生の男にしてみれば何とも言い難い。どうやら窪田も誘われた身であり、秋田に話を回しただけのようだったが、向こうもどう思っているのやら。別に男連中とつるむのは構わない。そこには独特の楽しさがある。その六人で出かけるのも結構好きだ。しかし、場所が遊園地となると楽しみよりも空しさや気恥ずかしさが先行してならない。高校生なら、遊園地は女と行くものだという認識が強い。集団ならばまた話は違うのだろうが、それでも男だけでこの暑い季節に遊園地に乗り込んでいくのは気が進まない。しかし断ろうにも、最初にその日は予定が無いと言ってしまった。
46:約束(イオネ−17歳)
手紙を書くのは嫌いではないけれど、あまりいい内容ではない時は気が進まなくなる。
今年はどうも実家に帰省できそうになかった。師匠の研究はとても忙しく、その手伝いをしているイオネは到底この街を離れられる状態ではない。
年に二回は帰省する約束で家から離れて薬師の修行をしている。これまでは夏と年末年始に家に戻っていたから今年もそうするつもりだったのに。
冬こそは。そう思うけれどそれだってその時になってみなければわからないのだろう。
47:暑中見舞い(倉橋瑞穂−高2)
今年はどうも実家に帰省できそうになかった。師匠の研究はとても忙しく、その手伝いをしているイオネは到底この街を離れられる状態ではない。
年に二回は帰省する約束で家から離れて薬師の修行をしている。これまでは夏と年末年始に家に戻っていたから今年もそうするつもりだったのに。
冬こそは。そう思うけれどそれだってその時になってみなければわからないのだろう。
最近ではお正月くらいにしか手にすることのないハガキ。暑中見舞いという名前で送られてきたそれは中学の時に同じ部活で仲が良かった子から届いたもの。年に数回こうして届く便りはメールではなく必ずハガキだ。あの子なりに考えてのことなんだと思う。その気遣いになんだか悪いような気がしながらも、鈍く痛む胸に知らない振りをすることもできなくて。こちらから送るハガキはいつも当たり障りのない言葉の羅列になってしまう。
48:日焼け(倉橋瑞穂−高1)
家に帰ってくると、母が先に帰宅していた。キッチンから漂ってくる食欲をそそる匂い。「ただいま」と言いながらそのまま母のところに行くと上機嫌の笑顔が返ってきた。
「よしよし。ちゃんと早く帰ってきたじゃないの」
「そりゃあね。今日はご馳走だもの」
もうすぐ東南アジアに仕事に行っていた父が帰ってくる。今回は二週間というそんなに長くない期間だったとはいえ、無事に帰ってくるのは嬉しい。
「お父さん、どれくらい焼けたかな」
「そうねえ。昨日のメールだとまるで向こうの人みたいになってたけど。瑞穂も見たでしょ?」
「あれ写真だからさ。実際に見るとどんな感じなのかなって」
「楽しみね」
母は楽しみが一つ増えたとにこにこしている。
父の帰宅予定時間まであと一時間。顔を見るのがひどく待ち遠しい。
49:夏の思い出(吉野香織−高2)
「よしよし。ちゃんと早く帰ってきたじゃないの」
「そりゃあね。今日はご馳走だもの」
もうすぐ東南アジアに仕事に行っていた父が帰ってくる。今回は二週間というそんなに長くない期間だったとはいえ、無事に帰ってくるのは嬉しい。
「お父さん、どれくらい焼けたかな」
「そうねえ。昨日のメールだとまるで向こうの人みたいになってたけど。瑞穂も見たでしょ?」
「あれ写真だからさ。実際に見るとどんな感じなのかなって」
「楽しみね」
母は楽しみが一つ増えたとにこにこしている。
父の帰宅予定時間まであと一時間。顔を見るのがひどく待ち遠しい。
手帳を開いてみると8月のカレンダーはほとんど「バイト」の文字でびっしりつまっていた。去年と同じ夏休みの過ごし方は結局単調ではあったけれど、暇を持て余すことはほとんどなかった。高校生バイト可のファーストフード店の時給なんてたかが知れたものだけれど、ひと夏働けばいい小遣い稼ぎになった。貯まったお金はそう遠くない内に服に消えていくことになる。できれば学校のある時もバイトしたいのが本音。でも親が許してくれないから、次にバイトするのはきっと冬休みだ。
50:宿題(狩屋良臣−高2)
「なあ、なんか飲み物買ってきてくんねえ?」
「財布貸せよ。コーヒーっぽいのでいいか?」
「おー頼む」
財布を受け取って席を立つ。ついでに自分の分のお代わりも買おうと思ってメニューを見る。
夏休みも終わりに近づいている今日、坂本に呼び出されてやってきたのは某有名コーヒー屋。奢るから宿題を見せてくれ、という頼みに昼食もつけることで応じることにした。
坂本が言うに、塾の方にかかりっきりで一部の宿題をすっかり忘れていたらしい。らしいと言うか何と言うか。
ドリンクを両手に持って席に戻ると坂本は黙々と宿題を写していた。
「おい、これ。俺の分も買ったから」
「俺の奢りだからって図に乗んなよ」
「だってそういう話だし。つーかお前、古典はどうなんだ?」
坂本の苦手科目と言えば古典だ。だから頼まれた時はてっきり古典を持ってこいと言うかと思ったのに意外にも数学だった。
「古典も半分くらい残ってんだけどさ、そっちはあてがあるんだ」
「ふーん」
坂本は一年の時に普通クラスにいたせいか顔が広い。誰に頼んだか知らないが、俺みたいに何か奢って見せてもらうんだろうか。こいつの財布が少し心配だ。
51:始業式(浅間梢−高2)
「財布貸せよ。コーヒーっぽいのでいいか?」
「おー頼む」
財布を受け取って席を立つ。ついでに自分の分のお代わりも買おうと思ってメニューを見る。
夏休みも終わりに近づいている今日、坂本に呼び出されてやってきたのは某有名コーヒー屋。奢るから宿題を見せてくれ、という頼みに昼食もつけることで応じることにした。
坂本が言うに、塾の方にかかりっきりで一部の宿題をすっかり忘れていたらしい。らしいと言うか何と言うか。
ドリンクを両手に持って席に戻ると坂本は黙々と宿題を写していた。
「おい、これ。俺の分も買ったから」
「俺の奢りだからって図に乗んなよ」
「だってそういう話だし。つーかお前、古典はどうなんだ?」
坂本の苦手科目と言えば古典だ。だから頼まれた時はてっきり古典を持ってこいと言うかと思ったのに意外にも数学だった。
「古典も半分くらい残ってんだけどさ、そっちはあてがあるんだ」
「ふーん」
坂本は一年の時に普通クラスにいたせいか顔が広い。誰に頼んだか知らないが、俺みたいに何か奢って見せてもらうんだろうか。こいつの財布が少し心配だ。
手帳を開いてみると8月のカレンダーはほとんど「バイト」の文字でびっしりつまっていた。去年と同じ夏休みの過ごし方は結局単調ではあったけれど、暇を持て余すことはほとんどなかった。高校生バイト可のファーストフード店の時給なんてたかが知れたものだけれど、ひと夏働けばいい小遣い稼ぎになった。貯まったお金はそう遠くない内に服に消えていくことになる。できれば学校のある時もバイトしたいのが本音。でも親が許してくれないから、次にバイトするのはきっと冬休みだ。
52:友達(藤見忍−高3)
「あれ?藤見?」
改札を通り抜ける前に声をかけられて振り返ると見知った顔があった。
「お前か」
「そりゃこっちのセリフだ。まさか朝からお前と会うとはなあ」
そう言って歩みを促したのは高岡修哉。中学時代の親友だ。学校は違うが夏休みも会ったのでそんなに懐かしくもない。相変わらずいい男だが、俺だって負けてはいない。
「つーかお前、ホント化け物だよな。すげー眠かったのに一気に目が覚めた」
「誉め言葉として受け取っておく」
目も覚める美貌ってやつだ。
もっとも高岡は違う意味で言ったわけだが。
53:秋(吉野香織−高3)
改札を通り抜ける前に声をかけられて振り返ると見知った顔があった。
「お前か」
「そりゃこっちのセリフだ。まさか朝からお前と会うとはなあ」
そう言って歩みを促したのは高岡修哉。中学時代の親友だ。学校は違うが夏休みも会ったのでそんなに懐かしくもない。相変わらずいい男だが、俺だって負けてはいない。
「つーかお前、ホント化け物だよな。すげー眠かったのに一気に目が覚めた」
「誉め言葉として受け取っておく」
目も覚める美貌ってやつだ。
もっとも高岡は違う意味で言ったわけだが。
「お、いい色」
おはようの挨拶もそっちのけで忍から出た一言に笑顔を返す。
夏は少し明るかった髪を昨日染め直した。落ち着いた雰囲気で秋っぽく、というリクエストを叶えてくれた担当さんに感謝している。今回の色はかなり気に入っている。それを親しい人から認めてもらえるのはやっぱり嬉しい。
「似合うよ。香織ちゃん」
「ありがと」
54:秋桜(コスモス)(近藤真衣−高2)
おはようの挨拶もそっちのけで忍から出た一言に笑顔を返す。
夏は少し明るかった髪を昨日染め直した。落ち着いた雰囲気で秋っぽく、というリクエストを叶えてくれた担当さんに感謝している。今回の色はかなり気に入っている。それを親しい人から認めてもらえるのはやっぱり嬉しい。
「似合うよ。香織ちゃん」
「ありがと」
「あ、莉奈それ可愛い」
朝一番で見つけた莉奈の髪を飾るピンクの花。思わず指すと莉奈は「へへへー」とピースを作った。
「いいでしょー?秋だよ秋。秋って言ったらコスモスでしょ。この間の休みに見つけてつい買っちゃったー」
「うん、いいねー。莉奈すごく似合ってるし」
莉奈はこういうのが好きだ。春はチューリップ、夏はひまわり、秋はコスモス、冬は雪。季節にちなんだものをよく取り入れている。
あたしも何かやってみようかな。憧れるけど、莉奈とかぶるし、そもそも莉奈がすごく可愛く小物を使っているので結局気が引けてやめてしまう。
55:食欲(秋田聡−高2)
朝一番で見つけた莉奈の髪を飾るピンクの花。思わず指すと莉奈は「へへへー」とピースを作った。
「いいでしょー?秋だよ秋。秋って言ったらコスモスでしょ。この間の休みに見つけてつい買っちゃったー」
「うん、いいねー。莉奈すごく似合ってるし」
莉奈はこういうのが好きだ。春はチューリップ、夏はひまわり、秋はコスモス、冬は雪。季節にちなんだものをよく取り入れている。
あたしも何かやってみようかな。憧れるけど、莉奈とかぶるし、そもそも莉奈がすごく可愛く小物を使っているので結局気が引けてやめてしまう。
次々と開けられていく箱や袋はいつの間にかとんでもない数になっていた。そのほとんどがカズがたいらげたもので、俺はとっくに食が止まっている。
「いつまで食べるんだ?」
呆れて尋ねるとカズは秋限定のスナック菓子を腹に収めてから口を開いた。
「んー、そろそろ腹八分目になるからやめとこうかな」
「それだけ食べればもうよくない?」
昼休み中ずっと食べ続けていたんだからいい加減にした方がいい。カズの大食いは秋になって酷くなった。どうやら食欲の秋らしい。あの細身のどこにあれだけの量が入るのか。本当に謎だ。
「でもさ、近藤からもらったやつまだ食べてないんだよな。感想ちゃんと言いたいし、それで終わりにする」
「別に今日じゃなくたって」
「いや、俺は食う」
カズは近藤さんからもらったというチョコレートを取り出した。
ダメだ。何を言っても無駄だ。
俺はカズを見放して浅間さんのところに行くことにした。
56:運動会(浅間梢−高2)
「いつまで食べるんだ?」
呆れて尋ねるとカズは秋限定のスナック菓子を腹に収めてから口を開いた。
「んー、そろそろ腹八分目になるからやめとこうかな」
「それだけ食べればもうよくない?」
昼休み中ずっと食べ続けていたんだからいい加減にした方がいい。カズの大食いは秋になって酷くなった。どうやら食欲の秋らしい。あの細身のどこにあれだけの量が入るのか。本当に謎だ。
「でもさ、近藤からもらったやつまだ食べてないんだよな。感想ちゃんと言いたいし、それで終わりにする」
「別に今日じゃなくたって」
「いや、俺は食う」
カズは近藤さんからもらったというチョコレートを取り出した。
ダメだ。何を言っても無駄だ。
俺はカズを見放して浅間さんのところに行くことにした。
「日曜さあ、弟の運動会なんだわ」
「なに?応援しに行くの?」
「応援はしないけど、友達と遊びに行くつもり。先生の顔でも見に行こうかなって」
そんなこと言いながらも佐和子はきっと弟の応援もばっちりする。男兄弟と仲良くするのは恥ずかしい年頃だからなかなか言わないけど佐和子が弟思いのお姉さんだってことはよく知っている。二人兄妹の下の立場としてはそんな佐和子が羨ましくもある。
「まあ、楽しんできなよ。違う高校の子とかも会えそうだしね」
「そうだね。でも仲が悪かった奴らとは会わないでいたいな」
そんなことを言いながらも佐和子は楽しそうに笑っている。だから素直にいい日になるといいねと思った。
57:文化祭(千野神奈−高3)
「なに?応援しに行くの?」
「応援はしないけど、友達と遊びに行くつもり。先生の顔でも見に行こうかなって」
そんなこと言いながらも佐和子はきっと弟の応援もばっちりする。男兄弟と仲良くするのは恥ずかしい年頃だからなかなか言わないけど佐和子が弟思いのお姉さんだってことはよく知っている。二人兄妹の下の立場としてはそんな佐和子が羨ましくもある。
「まあ、楽しんできなよ。違う高校の子とかも会えそうだしね」
「そうだね。でも仲が悪かった奴らとは会わないでいたいな」
そんなことを言いながらも佐和子は楽しそうに笑っている。だから素直にいい日になるといいねと思った。
「――あ」
人ごみの中で見つけた男に思わず顔を顰めた。
私を見つけるや否や手をひらひらと振って近づいてくるあの男――川崎良幸。祖父に未来の夫だと言われたその男を私はどうにも好きになれないでいる。恋愛対象はおろか、一人の人間として。
なんでこんなところに。その疑問は奴の後ろからやってきて腕にひっついた女を見て解決する。
デートなら他でしなさいよ。大学生が高校の文化祭なんかにやってくるな。相手は多分大学生だと思う。高校生にしてはけばすぎる。
「よう」
「どーも」
挨拶してくる良幸にぶっきらぼうに返事をする。女からの視線がちくちくと痛い。
「ねえ、この子だあれ?」
「俺のイトコ。久しぶりだな」
誰が従姉妹だ。こんな奴と血が繋がっててたまるか。口には出さないで一睨み。でも向こうには全然通じていないらしい。仕方がないので早く追い払う方向に転換する。
「女バスがやってるケーキ屋さんが美味しいよ。行ってみた?」
「いや、まだ」
「じゃあ彼女と行ってきなよ」
「んー、じゃあそうしようかな。行く?」
隣の女は「行く」と嬉しそうに頷いた。そう、それでいいのよ。さっさとここから消えてしまいなさいよ。
「神奈は誰と食べたんだ?」
去り際に思いがけない質問をかけられて一瞬固まる。そういうこと聞くのは無粋ってもんじゃないの?でも隠すこともないから正直に言ってやった。
「彼氏」
それを聞いたあいつは「へえ」と面白そうに笑って手を振った。
58:合唱人ごみの中で見つけた男に思わず顔を顰めた。
私を見つけるや否や手をひらひらと振って近づいてくるあの男――川崎良幸。祖父に未来の夫だと言われたその男を私はどうにも好きになれないでいる。恋愛対象はおろか、一人の人間として。
なんでこんなところに。その疑問は奴の後ろからやってきて腕にひっついた女を見て解決する。
デートなら他でしなさいよ。大学生が高校の文化祭なんかにやってくるな。相手は多分大学生だと思う。高校生にしてはけばすぎる。
「よう」
「どーも」
挨拶してくる良幸にぶっきらぼうに返事をする。女からの視線がちくちくと痛い。
「ねえ、この子だあれ?」
「俺のイトコ。久しぶりだな」
誰が従姉妹だ。こんな奴と血が繋がっててたまるか。口には出さないで一睨み。でも向こうには全然通じていないらしい。仕方がないので早く追い払う方向に転換する。
「女バスがやってるケーキ屋さんが美味しいよ。行ってみた?」
「いや、まだ」
「じゃあ彼女と行ってきなよ」
「んー、じゃあそうしようかな。行く?」
隣の女は「行く」と嬉しそうに頷いた。そう、それでいいのよ。さっさとここから消えてしまいなさいよ。
「神奈は誰と食べたんだ?」
去り際に思いがけない質問をかけられて一瞬固まる。そういうこと聞くのは無粋ってもんじゃないの?でも隠すこともないから正直に言ってやった。
「彼氏」
それを聞いたあいつは「へえ」と面白そうに笑って手を振った。
59:読書(近藤真衣−高2)
「ありえない」
「うん、ありえないね」
渋い顔をする莉奈に全面同意。だって、おかしいよね。音楽雑誌が本に入らないなんて。
読書の秋、ということで今週から読書週間に入った。朝の十分間は読書をしなければならないからあたしと莉奈は音楽雑誌を持ってきたんだけどそれはダメだと言われて担任に没収されてしまった。
「ふざけんなよ、ちゃんと文章書いてあんじゃん」
「ほんとだよ!あれあたしの愛読書なのに本じゃないとかさー!」
帰りに返してもらえるとか関係ない。さっきから不満を言いまくっているせいで隣の席の窪田君がどこか行ってしまったけど今はそれもどうでもいい。
誰が何と言おうとあれは本なんだってば。
60:芸術「うん、ありえないね」
渋い顔をする莉奈に全面同意。だって、おかしいよね。音楽雑誌が本に入らないなんて。
読書の秋、ということで今週から読書週間に入った。朝の十分間は読書をしなければならないからあたしと莉奈は音楽雑誌を持ってきたんだけどそれはダメだと言われて担任に没収されてしまった。
「ふざけんなよ、ちゃんと文章書いてあんじゃん」
「ほんとだよ!あれあたしの愛読書なのに本じゃないとかさー!」
帰りに返してもらえるとか関係ない。さっきから不満を言いまくっているせいで隣の席の窪田君がどこか行ってしまったけど今はそれもどうでもいい。
誰が何と言おうとあれは本なんだってば。
61:日曜日
62:カラオケ(狩屋良臣−高3)
坂本にカラオケに誘われた、と言うと食器洗いをしている瑞穂の手が止まった。
「え、なに、行くの?何人で?」
ギギギ、という音が聞こえてくるような動きで瑞穂が振り返る。口元が強張っているのはなんでだろう。
「今のとこ三人の予定だけど」
「狩屋、カラオケ好き?って言うか歌う?」
「嫌いじゃないけど好きでもねー。義理程度には歌うかな。でもあいつと行ったことないんだよ」
「あー、じゃあどうかな。うーん……」
瑞穂がなにやら考え込んでしまう。話が全くわからないので「なんなんだよ」とせかすと瑞穂はため息を一つついた。
「宏樹、カラオケ大好きだからさ。途中からオンステージになるの。でもそんなに上手くもないんだよねえ」
狩屋にはストレスになるだけかもよ。
そう言われて、次に考えたのは誘いの断り文句だった。
「貴重な情報サンキュ」
「どういたしまして」
持つべきものは為になる助言をしてくれる同居人だな。
63:焼き芋(窪田一弘−高2)
「え、なに、行くの?何人で?」
ギギギ、という音が聞こえてくるような動きで瑞穂が振り返る。口元が強張っているのはなんでだろう。
「今のとこ三人の予定だけど」
「狩屋、カラオケ好き?って言うか歌う?」
「嫌いじゃないけど好きでもねー。義理程度には歌うかな。でもあいつと行ったことないんだよ」
「あー、じゃあどうかな。うーん……」
瑞穂がなにやら考え込んでしまう。話が全くわからないので「なんなんだよ」とせかすと瑞穂はため息を一つついた。
「宏樹、カラオケ大好きだからさ。途中からオンステージになるの。でもそんなに上手くもないんだよねえ」
狩屋にはストレスになるだけかもよ。
そう言われて、次に考えたのは誘いの断り文句だった。
「貴重な情報サンキュ」
「どういたしまして」
持つべきものは為になる助言をしてくれる同居人だな。
「秋だねえ」
「おう、秋だな」
冬も近づいてきた寒空の下、公園のベンチに真衣と二人並んでいる。二人の手には半分に割られた焼き芋。
平日ならではの放課後デートをしていたところ、真衣が焼き芋屋を見つけた。目を輝かせて「買おう」とせがむ彼女を拒む気も起こらず、二人で一つの芋を分けることになった。
彼女と焼き芋。恥ずかしいからあまり人には言いたくない。と言うか、絶対に言うもんか。でも幸せそうに「美味しいね」と見上げてくる真衣が可愛いから、また買ってやるのもいいかもしれない、なんて思った。
64:ランチタイム「おう、秋だな」
冬も近づいてきた寒空の下、公園のベンチに真衣と二人並んでいる。二人の手には半分に割られた焼き芋。
平日ならではの放課後デートをしていたところ、真衣が焼き芋屋を見つけた。目を輝かせて「買おう」とせがむ彼女を拒む気も起こらず、二人で一つの芋を分けることになった。
彼女と焼き芋。恥ずかしいからあまり人には言いたくない。と言うか、絶対に言うもんか。でも幸せそうに「美味しいね」と見上げてくる真衣が可愛いから、また買ってやるのもいいかもしれない、なんて思った。
65:花壇
66:恋愛
67:喧嘩
68:ランドセル
69:ペット
70:ポニーテール
71:保健室
72:サッカー部
73:野球部
74:図書室
75:ぬいぐるみ
76:スカート
77:雪
78:冬
79:冬休み
80:クラス会
81:クリスマス・イブ
82:クリスマス
83:今年
84:大晦日
85:除夜の鐘
86:年賀状
87:お正月
88:お餅
89:コーンポタージュ
90:あけましておめでとう
91:初詣
92:デート
93:2月13日
94:バレンタインディ
95:卒業式
96:思い出
97:大切
98:ホワイトディ
99:さよなら
100:ありがとう