088.眠れない
君がいないなんて、耐えられない。
ふと目が覚める。
部屋はまだ暗い。
時計を見ればまだ午前3時。2時間しか寝ていない。
最近、まともに眠っていない。
眠ろうとしても、すぐに起きてしまうのだ。
食欲もない。
あの日からずっと、1日1食生活になってしまっている。
彼女が知ったらさぞかし怒るだろうと考えて、その彼女はもうここには来ないのだと自己嫌悪に陥る。
あの日――1週間前、彼女が別れを告げてから、死人のような生活を送っている。
絵も描けない、食欲もない、なかなか眠れない。
考え事をしたり、ボーっとしている内に、一日が終わっていく。日に一回だけコンビニに行く為に外出するが、それ以外はずっと家の中に籠もっている。
考えるのは、彼女のこと。
一時的に断られることはあっても、自分の傍から去っていくことなど決してないと思っていた。
けれど、彼女は去って行った。
何が悪かったのか。
考えても考えてもわからない。
そんなに歳の差があるのが嫌だったのか。まさか。7歳差なんて大したことない。小中学校の頃の話が合わないのは仕方ないが、彼女だって今は成人している。三十路近い男なんて嫌だと言われたらどうしようもないけれど、でも。
彼女が俺のことを嫌っていたとは思えない。それだけは絶対に無いと言い切れる。その代わり、少し前まであった彼女が自分のことを好きなのだろうという考えに自信を持てなくなった。いや、正確に言うと少し違う。彼女は自分のことをそこそこ好きでいてくれるのだと思う。けれど、他に好きな男がいるのかもしれない。そう、恋愛対象として好きな男が。
だから、もう会えないと言ったのかもしれない。
でも。
あの日から、ずっと引っ掛かっていることがある。
去り際に彼女が見せた涙。
どうして彼女が泣くのか。
その理由がわからない。
罪悪感だけであんな顔はしないと思う。
本当に辛そうな顔で。傷ついた顔で。
どうして彼女が傷つくのか。
ずっと、その意味を考えていた。
そして、思ったことがある。
彼女の本心は、あの返事とは違うのかもしれない。
彼女も俺と離れたくて別れを告げたのではないのかもしれない。
俺に都合のいい解釈だとも思った。
でも、それ以外には思いつかなかった。
彼女は何か理由があってああするしかなかったんじゃないだろうか。
そう思うと、彼女に確かめたくなった。
けれど違っていた時のことを考えるとなかなか行動に移せない。
第一、もう会えないと言って去った彼女とどうやって会えばいいのか。
電話やメールじゃ駄目だ。着信拒否にされているかもしれないし、そんなもので話すようなことじゃない。
直接会って話さなければならない。
どうすれば彼女に会える?
彼女の家もわからない。こんなことなら住所を聞いておけばよかった。
知っているのは、彼女の通っている大学と、通学に使っている駅くらいのもので。けれど、色々考えてそれしかないかと自分の無謀とも言える考えに苦笑を浮かべた。
彼女に会いに行こう。
彼女の大学に行って、探し出そう。
少しでも可能性があるなら。