人災はある日突然やってくる

モクジ

  行く年来る年  

「ケーキいっぱいもらっちゃった。お裾分けしにきたよー」
 こんにちはも久しぶりもなく、ケーキボックスを手渡してきた桃子に梢はあんぐりと口を開けた。
 大晦日。
 世間では大掃除やら新年の準備やら忙しいところに突然やってきた従姉妹はこちらが何も言わないのも気にせず、玄関でブーツを揃えて勝手に上がっていく。
「あ、ちょっ、桃ちゃん」
「上がるよー」
 リビングのこたつに足を入れながら言われてもと思うが、指摘したところでどうにもならない。梢も一応部屋の大掃除をしていたけれど、半年ぶりに顔を合わせる桃子を追い払うわけにもいかない。
「おじさんとおばさんは?」
「買い物。お正月の準備だって。私は掃除」
「ふーん。あ、それ冷やしといた方がいいよ」
「あ、うん。って、これどうしたの?」
 箱は大きめで、しかも中身がずっしりと重い。ホールではなさそうだけれど、それにしてもたくさん入っているみたいだ。誕生日を迎える人はこの家にはいない。まさか桃ちゃんの?――いや、確か春生まれだったはず。
「冬休み入ってすぐこっちに帰ってきたの。で、ケーキ屋さんでバイトしてるんだけどさ。いっつも余ったやつもらってるんだよね。最初の内は嬉しかったんだけど、最近どうも飽きてきちゃって。ほら、大体余るやつって同じだし。でも美味しいし、せっかくだから誰かに食べてもらった方がいいでしょ。それでここ数日、近所や従兄弟連中のとこ回ってるってわけよ」
 県外の大学に進学した彼女は今、大学2年生。これまでの休みは、帰ったり帰らなかったりと様々だけれど、なんだかんだで一年に一回はひょっこりやってくる。大学生らしくおしゃれな服、メーク、小物、流石桃ちゃんだと感心することばかり。ただ、ちょっと人の話を聞かないところが玉に瑕だ。
 取りあえず、とまずケーキを冷蔵庫にしまってからこたつに入る。桃ちゃんは既にテレビを見ていた。ただ、やっている年末特番には大して興味がないらしく、「ふーん」と適当な反応をしている。
「年末年始ってなんかつまんないよね。まあ、このつまんなさが年末らしくはあるんだけど」
「桃ちゃんが監督したらさぞ面白い番組になるんだろうね」
「んー、無理無理。そんな情熱ないもん。勝手にやってーって感じ」
 テレビに向かってしっしっと手を振る桃ちゃんに苦笑して、みかんが置かれた皿を動かす。桃ちゃんはバチバチの睫毛を嬉しそうに瞬かせて「ありがとう」と早速一つ手に取った。
「ケーキ屋さんのバイト、楽しい?」
「そうだねー、クリスマスは大変だったな。焼いてるわけじゃないのに、こっちがてんやわんやだった。でも普段はそこまでじゃないし、可愛いケーキを見るのは楽しいかな。余り物ももらえるしね」
「実はそれが目当てだったりして」
「あはは、それもある」
 だって、特典は多い方がいいでしょ?
 桃ちゃんはウインクを飛ばすと、綺麗にすじを取ったみかんを一つ口に放り込んだ。
 バイトをすることは結構興味がある。今は学校で禁止されているし、校則を破ってまでお金が欲しいわけじゃないから、高校を卒業してからだろうか。だからバイト=ちょっと大人に近づいたなんてイメージが強くて、そんなところにも憧れているんだと思う。その時になってみないとわからないけれど、ケーキ屋さんも有りだな、と頭の中にメモをする。
「あー、でもさ、桃ちゃん。クリスマスにこっちにいてよかったの?」
「ああ、彼氏?大丈夫。向こうもね、早めに帰省して短期集中で免許取るんだって。クリスマスは早めにやったよ。だから全然問題なし」
「へー」
 それはよかったね、と適当に相づちをうつ。彼氏ともうまくいっているようで何よりだ。この前会った時に写メで見せてもらった男の人はまさに今時の若者という雰囲気の人だった。自分の好みじゃないなと思ったことは内緒にして、とにかく桃ちゃんとお似合いだからいいなと考え直した。
 せっかくだから、とみかんを一つ取り寄せて皮をむく。覗いた実の感じから美味しそうだと期待する。
「あたしのことはいいけどさ、梢ちゃんはどうなの。彼氏できた?」
 油断していたところに尋ねられて、つい指をみかんにさしてしまう。果汁が出てきて、慌てて指をなめた。
「いないよ」
 うん、いない。断じていない。自慢できることじゃないけど、大声で言いたいとは思わないけど、今のところはいない。――チラッと見慣れた顔が思い浮かんだのをすぐに消す。周りがなんと言おうと、噂は噂。事実無根なんだから、堂々としてればいいんだ。
「じゃあさ、好きな人はできた?あと、好きだって言ってくれる人とか」
「――っ」
 消したばかりの秋田君の顔がまた現れる。
 ちょっと待って。好きじゃないし。うん、そういう意味の好きじゃない。友達としては多分悪くないけど。それに向こうだってそういう「好き」はまだ言ったことがないし。――ちょっと待って、まだ、じゃなくて、これからも言うわけ無い。そういう展開になったら困る。卒業まで落ち着いた生活ができないなんて嫌だ。そんな世界逃げ出したい。
 どんどん飛躍する考えからふと我に返ると、桃ちゃんがにやにやしていた。
「梢ちゃーん。聞かせてもらおうじゃないの」
「い、いや、特に……」
「ないなんて言わせないよ。その反応は絶対にアリだね」
 びしっと人差し指を突きつけられ、何も言えなくなる。
 確かに、あんな反応しておいて「無い」なんて普通有り得ないんだけれど。でも、桃ちゃんが期待してるような話には遠く及ばない。そもそも話したところでやましいところなんて――――あるかもしれない。学校で抱きしめられたこととか、終業式の日にクリスマスツリーを見たこととか。それって、やっぱりそういう話になるよね。大体、秋田君はそういうつもりで接してるんだから。
「ほらほら、吐きなさいよ。お姉さんが協力してあげようじゃないの」
 待ちきれなくなったのか、桃ちゃんが頭をぐりぐりとげんこつで攻撃してくる。
「い、痛い。痛いってば。ちょ、ちょっとストップ!降参!無理!私の負けだって!」
「だったらさっさと話す」
 頭からは拳を離したものの、いつでも攻撃を再開できる距離に残して桃ちゃんは意地の悪い笑顔を浮かべた。
 楽しんでるよ、この人。
「そんなにいい話じゃないって。ちょっと、あれこれ言ってくる人がいて、周りが盛り上がってるだけ。こっちはいい迷惑だし、向こうだって楽しんでるだけだって」
「周りが盛り上がってるって?」
「噂だけが一人歩きしてるよ。つき合ってないって言っても誰も信じてくれないの」
 桃ちゃんはそれを聞いてすごく渋い顔をした。
「それってさ、つき合ってないように見えるからじゃないの?」
「いや、でもつき合ってないんだって」
「それが事実かもしれないけど。でもさ、周りから見てつき合ってるのと変わらないことしてるってことなんじゃない?」
「はあ?」
「だからさ、行動とか、雰囲気とか、そういうのが世間一般で彼氏彼女と呼ばれる人達が持ち合わせるものと同じなんだと思うよ。具体的に、人前でどんなことしてるか言ってごらん。チューとかしてたら怒るよ」
「してないって!!」
 最後の言葉につっこみつつ、桃ちゃんの言葉に不安が広がっていく。
 今言われたこと、結構図星かもしれない。
「私のとこにやたらとやってくるの。でも、元々人当たりはいいんだよ」
 ただし、仮面笑顔だけどね。
「それだけじゃないでしょ」
 桃ちゃんがずいずいっと身を乗り出してくる。ああ、こたつ布団がめくれてるよ。
 他にも言えそうなこと。それを考えて、取りあえず軽いものを出してみる。
「休み時間はほとんど一緒にいる気がする」
「他には」
「さ、最近は物理的に距離が近いかも」
「べたべたしてんじゃない?」
「してないって!大体私、結構きつく当たってるもん。でも向こうがこれまためげない人なんだって!」
 桃ちゃんは渋い顔を消すと、今度は神妙な顔になる。
「他にもいろいろあるんだろうけど、大体わかった気がする」
 そしてまたもやびしっと人差し指を突きつけた。目と鼻の先の距離に、思わずびくっとする。
「予言してあげる。梢ちゃん、絶対にその人とつきあうよ。みかん20個かけてもいいわ」
 
 

 雑誌をまとめ終わると、手を膝の上に置いた。
 夕食とお風呂を済ませた後、片づけの残りに取りかかっていた。時間は既に11時を過ぎている。片づけは大方終わった。細かいところはまだあるけれど、年明けでもできるような気がする。取りあえず、ゴミはまとめたし、大分いろんなものを整理できたと思う。
 でも、気持ちの方の整理がついていなかった。
 昼間、桃ちゃんが言ったこと。それがずっと頭の中を回っている。
 私と秋田君がつきあうという衝撃的な宣言をした後、桃ちゃんはみかんをむきながら続けた。
『本当に嫌な人だったら切り離すでしょ。どんなに相手がしつこかったって。そうしないってことは、本心で嫌がってないってこと。周りがって言うけど、結局その状況を認めてるのは梢ちゃんだよ。諦めてるとか、さも仕方ないってふうにして誤魔化してもね、気持ちは消えないよ。周りが騒いでる間、二人で気持ちを温めてるんじゃない?向こうはきっと梢ちゃんのこと好きだし、梢ちゃんだって好きなんじゃない?いつか行き着くところに行き着くよ。え?友達?笑わせないでよ。ただの友達に、周りから彼氏呼ばわりされるのを許すわけないじゃない。他でもない梢ちゃんがその人のこと、特別にしてるの。わかる?』
 ショックだった。
 秋田君のこと、知らないくせに。二人がどんなふうに過ごしてるのか見たこともない人にあんな言い方をされるなんて。
 でも反論できなかった。
 従姉妹だからじゃない。桃ちゃんが怖かったからでもない。
 少なからず、当たっていることがあったからだ。
 秋田君が好き?――まさか。やっぱりそういう「好き」じゃないと思う。秋田君が彼氏になったところなんて想像ができないし、したくない。周りの反応なんて一番考えたくない。
 周りが騒ぐのを許してる?――だって、本当に止められないんだもの。あれは一種の祭りのようなものだ。熱が冷めるまで待つしかない。止められるものならとっくに止めてる。
 気持ちを誤魔化してる?――知らない、そんなの。心当たりなんてないもの。桃ちゃんが深読みしすぎただけだ。
 でも。
 秋田君のことが特別――そこは否定することができなかった。寧ろ、自分でもそうだと思う。あれだけのことがあった人が、ただの友達のわけがない。いい意味でも悪い意味でも特別だ。
 じゃあ、その特別って一体なに?
 友達としての特別?
 それとも、人としての?
 皆が思うように、男の人として?
 そこまで考えたことはなかった。でも考えるのが怖い気もする。色んな可能性を考えて、でも、一つしか残らなかったら?今はちょっと特別な男友達だと自分を納得させていたのに、それが違うってことになったら?
 ただでさえ、秋田君は気持ちを振り向かせようとしている。微妙なラインの上に立っていることを忘れたことはない。だから、簡単に男友達の一言で済ませちゃいけない。それはわかってるけど。
 秋田君とつきあうなんて今は考えられない。でもそれも今だけの話で、いつの間にかつきあっているんだろうか。振り返って、そんな時もあったっけな、なんて思うんだろうか。
 そもそも、秋田君とこんなふうになったのだって、2学期に入ってからだ。たった4ヶ月。半年も経っていないことにびっくりする。でも17年の中で、一番濃い2学期だった。4ヶ月の間にたくさんのことがあって、周りが大きく変わった。今でも後悔してやまない秋田君観察。あれをきっかけにがらっと変わってしまった。
 思い出すのは嫌なことばかり。
 でも、4ヶ月も一緒にいれば、いいことだってある。
 真衣ちゃんと窪田君の仲を取り持った。ちょっと仕組むことになったけれど、結果的には二人は今いい雰囲気でつきあいを続けている。そこから真衣ちゃんとも仲良くなった。
 秋田君のいろんな表情を見ることもできた。そもそも、秋田君が本当の意味で笑わないのが気になってうっかり秋田君観察なんてやってしまったんだけれど、最近はちょっとしたところで本当の表情を見せてくれる。多くの人に対しては相変わらず無表情笑顔なんだけど、私にはちゃんとした表情を向けてくれることが多くなってそれが素直に嬉しい。秋田君と親しくなってよかったと思える一番大きなことだと思う。
 いまだに無表情笑顔は大っ嫌いだ。でも、瞳を見ればそれが本物かどうかよくわかるから。表には出ていなくても、どんな気持ちか伝わってくるから。それを隠さないでいてくれることに安心する。心のこもってない無表情笑顔よりずっと好きだ。
 クリスマスツリーも悪くなかった。強引に連れられていったから最初は気分が悪かったけど、でも、ツリー自体はとても綺麗だった。時間帯も丁度よくて、夕方の薄暗い頃から日が完全に沈んで真っ暗になる頃までキラキラ光るツリーをずっと秋田君と見ていた。それも手を繋いで。
 その時に言われた。秋田君といてよかったって思ってもらいたいって。
 あの時も思ったけれど、やっぱり大げさだ。だって、今思い出したこと意外にも、楽しかったことはたくさんある。放課後に秋田君とドラマの話をしたり、真衣ちゃん達と盛り上がったり。何気ない毎日の中に数え切れないほど潜んでいて、それらは秋田君がいなかったら得られなかった。それくらいは流石にわかる。
 これからどうしたい?
 自分に問いかけてみても、答えは出ない。
 今のままでいいような気もする。でも周りが今の状態なのは嫌だし、秋田君にももう少し控えて欲しいこともある。そしたら満足するだろうか。でも、秋田君はそれじゃ満足できないだろうか。
 男女の好きじゃなくても、今の私達なら楽しくやっていけると思うのに。それは違うんだろうか。
 考えられたのはそこまでで、しばらく空白の時間を送っていたところに携帯の着信音が鳴り響いた。ベッドの上に置きっぱなしにしていたそれを手に取り、発信相手を見て目を見開いた。
 秋田聡。
 なんでこんなタイミングで。
 一瞬躊躇った。でも、何事もなかったように通話ボタンを押した。
「はい」
「――あ、繋がった」
 電話の向こうから聞こえてきた声は妙に安心していた。声を聞くのは一週間ぶりだろうか。いや、十日近く聞いてない。
「どうしたの、こんな時間に」
「んー、なんか、一年の終わりらしくいろいろ振り返ってたら、浅間さんの声が聞きたくなって」
「なにそれ」
 笑い飛ばしながら、同じことをやっていたんだと変な気分になる。でも、同じ振り返るでも秋田君のはまた何か違うんだろう。
「だって、もう一週間以上も浅間さんに会ってない」
「冬休みだからね。でもメールは何回かしたよ?」
「毎日顔会わせてた頃からすると、全然物足りないよ。浅間さん、俺のこと忘れてない?」
「何言ってるの。いくらなんでもそれはないって。冬休みなんて、2週間しかないのに」
「でも、すごく長い間会ってない気がする」
「うん、そうかも」
 最後に直接会ったのは終業式の日。同じ電車に乗って、梢が使っている駅まで秋田君が送ってくれた。またね、と手を振り合った、あれ以来だ。
 普段は毎日顔を合わせるのが当たり前だから、どうしても長く会っていないような気分になる。
「今日は何してた?」
「えーと、ずっと掃除。途中、従姉妹がやってきてその相手してた」
「いとこって男?女?」
「女。大学生で彼氏もち。残念でした」
「いや、別にそこはどうでもいいんだけど。俺は昼間中学の友達と遊んでた。変わらないけど、やっぱ変わったところもあるよね。俺は全然変わらないって言われてちょっとショックだった」
「なにそれ。中学からああだったの?」
 なんかやだな、というのは声に出さない。でも秋田君には伝わったみたいだ。苦笑が聞こえてくる。
「いや、でも浅間さんと一緒にいるところを見たら撤回すると思うよ。キャラじゃないって言われそう」
「……じゃあ、らしいキャラに戻さない?無理に外すことないと思うよ」
 その方が私も安心できるんだけど。
「いやいや。無理もしてないから心配しないで」
 今のままでいられた方が心配が増えるんだけど。こっちがそう思うのをわかってて言ってるに違いない。こういうところが癪だ。本当に。
「なんかさ、今年は浅間さんのおかげで楽しかったなって」
「……そう」
 嬉しいと言うのは違う気がする。私も、と同意する気持ちに偽りはないけれど、それを口にするのは少し怖い。伝えたいような、伝えたくないような。結局ぶっきらぼうな言い方しかできないのが少しだけもどかしい。
「浅間さんは大変だった?」
「……答えるまでもないでしょう」
「ははは、ごめんね。でも来年も大変かもよ。年が明けたら心機一転、頑張らせてもらおうかな」
「どうせなら他のこと頑張らない?」
 とんでもないこと言わないでよ。
 内心びくびくしながら語気を強める。でも秋田君には通用しない。
「そうだね、程々に」
 程々にするべきことを間違えてるよ。
 つっこみたいけれどつっこめない。無限ループになりそうな気がして、それじゃ秋田君の思うつぼだ。
「あ、浅間さん。時計見て」
「え?」
 言われた通りに時計を見ると、二本の針が重なって真上を指していた。
 深夜12時。
「年、越えちゃったね」
 まさか秋田君と電話しながら年越しすることになるなんて。意外な新年の迎え方に呆気に取られる。
「うん。明けましておめでとう。今年もよろしく」
「おめでとう。こちらこそよろしくお願いします」
 秋田君から切り出した新年の挨拶を返しながら、見えないとわかっていながらぺこりと頭を下げる。
「始業式が待ち遠しいな」
「えー、私はやだよ」
「残念。でも、3学期になったら会えるね」
「同じクラスなんだから当たり前でしょ」
「そうだね。じゃあ、風邪ひかないように気をつけて。3学期早々俺を心配させないように頼むよ」
「ご心配なく。秋田君こそ、せきしながら来ないでよ。うつしたら怒るから」
 冗談めかしながら脅し口調にしてみると、秋田君が笑い声を上げた。
「それは大変だ。せいぜい注意するよ。じゃあ、この辺で」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
 電話を切ると、途端に静かになった部屋が急に寂しくなった。
 電話がかかってくる前と何も変わらないのに。
「新年になっちゃったよ」
 それも、秋田君と時間を共有しながら。
 こういう年越しは初めてだった。なんだか秋田君と一緒にいると初めてづくしのような気がする。
「ちょっと待って、もしかして去年の電話収めが秋田君で、今年の電話初めが秋田君?」
 しめくくりとスタートが両方秋田君だなんて、ちょっとすごい。
 思わず笑いがこみあげてくる。
「いい年になるといいんだけどな」
 多分どんな一年になるかは秋田君次第なんだろう。  
 この先どうなるか。平行線をたどるのか、秋田君が先に興味をなくすのか、それとも。
「あーもう、難しいこと考えるのやめやめ!さっさと寝よう」
 考えたところで答えなんて見つからない。
 取りあえずは、3学期になるまで何も変わらないんだから。その先のことはその時になればわかる。だから今はいい。
 ここはすぐにでも眠りについていい夢を見ようじゃないの。 
 願わくば、夢にだけは秋田君がでてきませんように――。
モクジ
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