He is a star!



「日刊あなた」で作った記事をベースにしたパラレルです。
 人災シリーズの秋田聡が怪しげな歌手になっています。でもこの話には直接出てきません。



 世の中は何があるかわからない。

 例えばそう、小学校、中学校と一緒に散々馬鹿やってきた奴がある日いきなり芸能界入りしたりとか。
 歌手デビューしたはいいものの、全く売れず、これが売れなかったら引退して地元に帰ろうと思って作った歌が驚異的な大ヒットを記録したりとか。
 その人気は日本に留まらず、アジアに進出していって大成功を収めたりとか。

 秋田聡。
 今や奴はアジアが誇る大スターだ。


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◇秋田聡、ついにミクロネシア進出◇
昨年末、シングル「秋田聡が止まらない」で爆発的ヒットを果たした人気歌手秋田聡。
秋田聡の躍進はとどまるところを知らない。所属事務所によると、大成功をおさめた今年1月のチベットツアーに続き、今度はミクロネシアツアーを行うとのこと。
秋田聡の人気は赤道直下の島国トンガでも高く、ツアーに先立ち「秋田聡が止まらない」(スワヒリ語バージョン)もリリースされる予定。
しかし、一部関係者からは、MCを一切いれずに、シングル1曲を2時間も繰り返し歌い続けるコンサートを、疑問視する声も聞かれ、今後プロモーターとの間に歪が生じるのでは?との見方もある。
秋田聡は自信のキャッチコピーでもある「いつまでも、あると思うな、人気と仕事」を地で行くのか、それとも、批判の声とは裏腹に、この人気が永遠に続くのか、いずれにせよ、今は秋田聡が止まらない。(県広報係記者)
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「……有り得ねえ」
 思わず零れた呟きは反対側のホームを出発した電車の音によって消された。
 暇つぶしに買った新聞。暇つぶしと言いながらもついつい奴の名前がデカデカと載ってるスポーツ新聞に手を伸ばしてしまったあたり、俺も重症だ。いや、でも実際暇つぶしだから。目的地に着くまでにすることがないから。だからあいつの記事でも読んでやろうかなんて思ったんだ。それだけ。あいつの行動がいちいち気になってるわけじゃないから。そこ間違えないようにしないと。
 それにしてもなんだよ。ミクロネシアツアー?あいつまだまだ行動範囲広げんの?でも行くとこおかしくね?ミクロネシアとかでライブやって稼げんの?つか、ミクロネシアでもあいつ有名人なわけ?しかもスワヒリ語バージョン?あいつそんなん喋れんの?英語すっげえ苦手だったくせに。あいつの発音思いっきり日本語英語なんだぞ。大ヒットした件の歌は全部日本語だからそんなん全然ばれてないけどさ。スワヒリ語バージョンって日本でも売り出すのか?多分売るよな。あいつ、「秋田聡が止まらない」だけで通常版・特典版(PVつき)・特別版(PV・PV製作映像・映像コメントつき)・リミックス版出してるんだぜ?今回も絶対売るつもりだ。がめついやつめ。本人はレコード会社から持ちかけられた話を受けてるだけって言ってるけど、内心稼ぐ気満々なのはばればれだ。なにせキャッチコピーがあれだもんな。あいつバカだけど。実は結構へたれだけど。考えることは意外と現実的だったりする。本当にムチャなことはしない奴なんだ。だからミクロネシアツアーなんて言い出したのは上からなんだろうなってのは予想がつく。でも今回はあいつも乗り気なんだろうけどな。なんせ今が売り時だから。
 でもいくら売れてくると色々ケチをつけられるようになるわけで。
 確かに、1曲をずーっと歌い続けるのは普通じゃない。こんなことやってるの、あいつだけだと思う。持ち歌が1曲だけじゃないから、余計にそう言われるんだろうな。たださ、これはあいつのデビュー曲からこれまで出した歌全部知ってる俺だから言えることだけど、今までの歌は今のあいつのカラーじゃないから歌えないんだと思う。
 これまでの曲は結構まともで。うん、まともなんだ。悪く言うとどこにでもあるような歌で、あいつが歌わなくても誰かが歌ってるような歌。そんなんばっかだったんだけど、これで最後になるかもしれないから、ってことであいつが作詞したのが「秋田聡が止まらない」。色々ぶっ飛んでて、内容はあるようなないようなやっぱりあるようなでもないような。正直、初めて歌詞カード見た時、あいつ壊れたと思ったね。なんつーかメチャクチャ。よく上がOKしたもんだと思ったよ。聴いてみたらもう音の使い方からして違う。なんて言っていいかわからないけど、J-POPとかロックとか、今までの枠に収まらない新境地がそこにあった。最後なのになんでよりによってこんなと思ったね。でも俺は3枚買ってやったよ。引退祝いのつもりでさ。
 それなのに。CD発売してから3週目くらいから「秋田聡が止まらない」が急に売り上げを伸ばし始めて、発売から2ヵ月後についにセールストップを記録した。それが年末のことで、あれから半年くらい経ったのに、未だに上位にランクインし続けている。一体どういう現象だよ、これ。なんであれが売れたのか俺にはわからない。テレビとか雑誌見てると、「独特のセンスがたまらない」とか「聴けば聴くほど癖になる。気づいた時には中毒になっていた」とか「彼は人類の音楽史の新たな扉を開いた」とか、もう意味がさっぱり。はっきり言おう。俺は前の曲の方が好きだったりする。でも今秋田聡を好きな奴らはあいつに強烈なインパクトを求めてるから、ありふれた曲なんてNGなんだろう。あいつがいいならいいけどさ。
 あいつが売れ出してから会える時間もなくなって、最近はメールもほとんどしてない。ま、向こうは超多忙な芸能人だからな。今やテレビやバラエティーにも引っ張りだこ。ライブをやればチケットが30分で売り切れるくらい大人気で、既にミリオンヒットを記録していて、今年の音楽賞は総なめ間違いなしって言われてる秋田聡だもんな。ありがたいことじゃないか。デビューしてからの苦労がやっと報われたんだもんな。せいぜい稼いどけよ。そして暇が出来た時に帰ってきて俺に奢れ。
 それにしても、デカデカと載ってる写真がむかつく。
 なにピースしてんだよ。調子乗ってんじゃねえよ。「いつまでも、あると思うな、人気と仕事」なんだろ?ミクロネシアツアーとか考える前に新曲出せっての。新しい詞がなかなか書けないなら酒でも飲んでおめでたくなった頭で書けば前作並みにインパクトあるのができるだろ。
 あー、でもその前にスワヒリ語バージョンだっけ?
 しょうがねえから買ってやるよ。聴いたらツッコミのメール送ってやる。
 誰もが手放しで大絶賛すると思ったら大間違いだからな。俺はお前の未来の為にダメなところはダメって言ってやるよ。
 ちょっと、俺ってすげえ友達思いじゃね?


歌手・秋田の地元の友達・窪田の独白。彼は多分大学生。

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